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インド旅行記 その1


オー・マイ・印度 ('95.8.2)

どきどきしながら入国審査と税関に突入する。なにせ、すべてが初めての体験なのだ。何の問題もなくそこを通り過ぎると変な匂いがしてきた。粘っこくて鼻腔の奥に絡み付くなんともいえぬ、独特の匂いだ。後から思えばこれが懐かしくもある印度臭なのだったのだけれど、その時はこの匂いが急速に不安を高めていった。

外に出るとお祭りかと思うほどの人間がうようよしていた。薄暗いロビーの中に白い目と白い歯だけをくっきりさせた印度人がわんさといた。みんな口々にいろんな事をモーレツに叫んでいる。そしてみんなこっちを見ている。なんだなんだと目だけをきょろきょろ見渡してみるが、ぼくはその状況をさっぱり理解できずにただボーゼンと思わず足がすくんだ。そういえば、旅行に出る前に読んだガイドブックにはいろいろ怪しいことが書かれていたなあ。それらが急速に蘇りグルグルとぼくの頭の中でとぐろを巻きはじめ、徐々に緊張が高まっていった。何を叫んでいるのかはぜんぜんわからなかったが、ぼくは急速に臨戦体制を整えていった。

ふと、ションベンがしたくなった。印度人視線ギロギロ攻撃から逃げ出すように便所に駆け込んで、一息つく。中は国際空港らしく手入れの届いたきれいな便所であった。しかしそういえば、印度式の大便は手動式ウォシュレットで紙なぞ置いていないトイレが多いとガイドブックに書いてあったなあと思い出し、今回はションベンだけではあったが、来たるべきその瞬間に備えてその部分はどおなっておるのかと、予習のつもりで大便所の戸を開けてみた。しかしそこには期待と予想に反して、普通のトイレットペーパーが装備され、何の変哲もない便器が据わっていた。いつまで見ていても仕方がないので、小便器側に向き直り用を足し始めた。

きゅいー、とドアの開く音がして誰かが入ってきた。印度人だ。ぼくの隣には立たず、なぜか入り口付近に立ったまま小便するぼくをじっと見つめている。視線の隅でそいつを見るとやんわりとうすら笑っているではないか!便所に入れば安らぎが待っているかと思いきや、彼らはなかなか休息を与えてはくれない。これはガイドブックにも書いてなかった展開だぞ、いきなりホモの出現か?それにしてもこの状態で後ろから抱きつかれたらあまりにも不利すぎるので、少々アセリながら下腹に力を入れ急いで残りを搾り出した。そうしてそいつと目を合わせないように、ぼくは手洗い場に恐る恐るぎこちなくゆっくりと向かった。