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インド旅行記 その9

それでいいのか? ('95.8.4)

アグラに到着してバスを降りる。デリーにいた時、アグラから戻った日本人から聞いてあらかじめ目星をつけておいたホテルがあったので、客待ちのオートリクシャーに行き先を告げる。そのドライバーはまったく口数の多いやつで一方的にいろんなことを一度に聞いてくるので、何から答えてよいのか少し戸惑った。しかし質問を矢継ぎ早にしてくる割にはその答えにはあまり興味がないようで、たいして実のある会話をしないままホテルに到着した。それなのに「僕はあなたのことが好きになったから、今日は運賃はあなたの好きでいいよ」なんて言うものだから少し猜疑心をあおられ、相場の10Rs支払うことにした。

ホテルの名前はHotel Pinkといった。別にお色気ムンムンの印度人女性がくねくね迫ってくるという特典つき!というわけではなく、単に建物がペンキでピンク色にベタ塗りされた変化球勝負のホテルであった。一泊80Rs(≒¥270)であった。部屋に入って荷物を降ろして部屋を見渡すと、ピンク色の壁に2,3匹ヤモリが引っ付いていた。ピンク色の壁にミドリ色をした体と大きな冷たそうな目が不気味に浮かび上がる。まさか襲ってくることなどありえないのだが、彼らに見つめられながら寝るというのはあまり気分のいいものではないなと思った。その夜はホテルで一緒になった日本人とホテルのレストランで飯を食いながら遅くまでよもやま話をした。そのレストランのメニューに「このホテルはあやしいからすぐに宿を変えることをお勧めします」と以前に泊まった日本人客が書いたと思われるメッセージが、何とはなしに気になる。ふとフロントに目をやるとオーナーと思しき男がこちらを見ながら薄ら笑いを浮かべていた。

翌日、「どんどんどんどん」というけたたましいノックの音に飛び起きた。何事かと扉を開けると朝から力強い陽の光が男の背中越しに射していて、しばらく目が慣れるまで男の顔は良く分からなかった。ようやく昨日のドライバーがそこに満面の笑顔とともに立っていることが分かった。昨日去り際に「明日は俺がアグラを案内してやるよ」と言いつつそいつが去っていたのを思い出した。一方的ではあるが約束してしまったものは仕方がないので、少々不機嫌なまま「30みにっつ、うえいと」と言うと「オフコース、サー」と胸に手を当てお辞儀をしながら調子のいい返事をした。

ガイドブックによれば、オートリクシャーに乗るときには料金の事前交渉は必須で、それをしなかったがために後で法外な値段を請求されたなどという事例が載っていたので、僕もまずそこから始めた。「ハウマッチ、トゥデイ?」

するとそいつは昨日と同じく「アズ・ユー・ライク(あなたの好きにしてください)」と答えた。「あなたの気持ちはうれしいが最初に決めておきたい」と言うと、「なぜ私を信用できないのか?昨日だってそうしたじゃないか!私は悲しい・・・。」と情に訴えるようなことを言ってきた。ボクはそこで思い切りそれに騙され、「O.K.」と言ってしまった。すると彼は途端に上機嫌になり「レッツ・ゴー」と片手を振り上げて出発した。
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